快生館イベントレポート「狩猟体験ワーケーションvol.3&4」を開催しました

快生館コミュニティマネージャーの土肥です。

2023年からスタートした「命と向き合う狩猟ワーケーション」
2024年は2月と3月に計2回実施し、今回も事故や怪我なく無事に両日程を終えることができました。

昨年は外部講師として呼ばれた私ですが今年はなんと正式に快生館のコミュニティマネージャーとしてこのワーケーションに携わるようになりました。
猟師として、スタッフとしてこの取り組みについての想いをレポートに綴ります。

開催スケジュール

<1日目>
9:00〜13:00:コワーキングスペースのワーク利用(希望者のみ)
13:00~13:30:受付、自己紹介、アイスブレイク
13:30〜14:30:座学
14:30〜14:40:休憩
14:40〜17:00:トラッキング、罠の設置講習
17:00〜18:00:自由時間
18:00〜20:00:ジビエ懇親会
20:00〜   :自由時間

<2日目>
10:00    :集合
10:00〜12:00:見回り、止め刺し見学
12:00〜13:30:解体、精肉
13:30〜14:30:解体したお肉でランチ
15:00〜16:00:ディスカッション
16:00    :解散

親子での参加や、はるばる東京や大阪からお申込みいただいた方など、参加者にも少し変化が見られました。各日9名ずつの遂行で、年代も10代から60代まで幅広く、動機もジビエが気になる方から狩猟免許を取得したがその後どうすればいいのかわからない方まで様々でした。

今回も心強い助っ人としてFUKUOKAわなシェアの大林さんと岩下さん、そして糸島のジビエ解体場で活動されている尾関さんにお越しいただけたことにより、実地においてはグループを分けての指導が可能となりました。

座学

2本立てで行いました。

まずは古賀市農林振興課の福田さんによる「古賀市の有害鳥獣対策」からスタート。
狩猟とは異なる「獣害被害を減らすための駆除」という切り口で山林や農作物の被害状況、かといって絶滅させてはいけない人間側ができる共存への取り組みを紹介していただきました。

駆除と狩猟については混同されやすい内容なので、直接ご担当者から話を聞くことができるのは非常に貴重なことです。これから狩猟に挑む参加者にとっては一種の線引きや心づもりになったかと思います。

次に私の方で「狩猟について」を約30分に凝縮してレクチャーをしました。
今回取り組む罠での狩猟にスポットを当てつつ、一連の流れと私が4年間で得た経験で伝えられる失敗談、高揚感を盛り込みながら講義を行いました。
時折挙手で質問してくださったり、お子さんも熱心に耳を傾けてくれたことがとても嬉しく、印象的でした。

アニマルトラッキング

いよいよ外に出ての活動です。
五感をフルに使う実地は時には座学以上の経験値をもたらしてくれます。
今回の狙いである鹿の痕跡を皆で探すのですが、鹿が多い地域なので目を凝らせば足跡や糞はすぐに見つかります。今回はそれに加え体毛を見つけることができたのが収穫です。
毛づくろいかじゃれあった名残でしょうか。これらの痕跡を元に特に濃い「獣道」を探し、捕獲への作戦を練ります。

罠の設置体験

今回使う「くくり罠」について、ワイヤー、パイプ、バネで構成された仕組みをレクチャーしました。
セッティングを行うためにバネを圧縮させるため、50kg程度の力が必要になってきます。
練習で数回セッティングを行ってもらい、木の棒を獲物の足に見立て作動させてもらいました。
中には実際に自分で踏んでみて動物の気持ちになる方も。

練習を済ませ、いよいよ設置に移ります。
痕跡はたくさんあるのに木の根が邪魔で穴が掘れない、獣道はあるのに罠を結んでおくための
立木がないなど、実際にやってみないとわからない「罠猟あるある」も感じてもらいつつ、ここぞ!という場所に罠を設置してもらいました。
このまま翌日の見回りまで放置し、獲物がかかるのを待ちます。

ジビエ懇親会

みんなでジビエを囲みます。
昨年は屋外BBQスタイルでしたが、今回は屋内でまったりとくつろぎながら楽しみました。

ジビエ本来のワイルドな風味を楽しんでいただきたい気持ちもありますが、これでジビエが苦手になってしまうと元も子もないので、ミンサーで鹿と穴熊を合い挽きにして「麻婆豆腐」「ボロネーゼ」を用意しました。
筋や硬いところが多く、精肉する際に細かいくず肉が出やすいジビエを無駄なく食べられるようにするための工夫です。

このワーケーションに参加されるまでジビエを口にされたことのない方もいたようで、「食べやすい」「意外と柔らかい」等々嬉しいリアクションを頂けました。

日中足場が不安定な山での作業だったので、泥汚れや疲労も想像以上です。思い思いのタイミングで快生館温泉「鹿の湯」に浸かっていただきながらゆっくりとした時間を過ごします。

見回り、止め刺し見学

翌朝に再集合し、罠に獲物がかかっていないかの見回りを行います。
できることなら罠にかかっている瞬間を見せたい、かかっていなければどうしようと、このワーケーションで一番期待と不安が入り混じる時間です。

2月の日程では「空弾き」という、獲物が罠を踏んだがうまく足に括られず逃げられた罠が一つあったのみで、残念ながら捕獲にはつながらず黙々と罠の回収を行いました。
通常の罠猟であれば継続して設置し続け様子を見るかポイントを変えたり、増設したりと色々とやりようはあるのですが、いかに1日で捕獲する事が難しいかを突き付けられる瞬間でした。

3月は2月の不発を元にトレイルカメラによる事前の観察を入念に行い、雌鹿に加え、テンと呼ばれるイタチの仲間を罠にかけることに成功し、結果を出すことができました。
テンも食すことはできるのですが、残念ながら猟期(2/15)を過ぎていたため、「放獣」と言って罠から解放します。
ネコぐらいの大きさですが生きたまま逃がす必要があるため、噛みつかれたり、爪で引っかかれるリスクもあるので止め刺し以上の緊張感がありました。

一方鹿は福岡では猟期が4/15までとなっているので、このまま止め刺しに入ります。
「止め刺し(とめさし)」と読むのですが、鉄砲を持っていない我々は単管で頭を殴り昏倒させ、そのままナイフで心臓に一突きいれて仕留めます。

「狩猟」を感じる場面でもあるので間近で見たい気持ちも充分理解できますが、急に暴れ出したり、罠から脱出するリスクもあるため、罠のかかり具合やワイヤーの長さを見ながらギリギリの距離感で安全管理を行います。

解体・精肉

2月は捕獲が無かった時の代替として、止め刺しとその後の行程についてスライドで紹介を行い、事前にストックしておいた猪や鹿の骨付き肉を使って解体作業を体験してもらいました。

3月に獲れた雌鹿には「腹子(はらご)」と呼ばれる未成熟の胎児も存在し、解体しているとダイレクトに伝わってくる鹿の体温を感じ取っていただきました。

見回り前の獲物が獲れていてほしいというワクワクとした雰囲気から一転して、止め刺しから解体にかけて参加者の空気感が変わるのがとても印象的で、鮮烈な体験になったのではないかと思います。

ジビエランチ

ストックしていた肉と獲れた鹿を使い、参加者で昼食を囲みました。
タンやハツ、レバーなど日持ちのしない部位もこの時に皆でシェアします。
獲れた一頭をみんなで分配する。さながら原始時代のようですが、ひとりですべてを行うのが非常に大変な狩猟にとって苦楽を語らう場や時間としての食事は非常に有意義なものになります。

自分たちで解体したお肉を食べる参加者のリアクションも、昨夜の懇親会時とまた違ったものになっているようにも思えました。 

2月に実施した際は、とある参加者と事前に連絡を取り合って猪のスパイスカレーを仕込んで頂き、お店顔負けの味で全員の顔がほころびました。ご協力頂き本当にありがとうございました。

振り返り・ディスカッション

全行程を通しての感想を発表し合います。
止め刺しの現場を見せられたか否かで大幅にリアクションが変わってくるのですが、「獲れないのも狩猟なんだ」という感想に救われる一方で、どうすれば当日に捕獲の現場を見せられるかという今後の課題を噛みしめました。

参加者の声(参加後アンケートから抜粋)

・座学と現場と実体験のバランス、仲間との交流の場など、最高でした。
・福田さんのお話と土肥さんの説明から、狩猟の様々な側面に触れることができました。
・実際の足跡や糞を見ながらルートを予想したり、罠の使い方も安全ポイントを説明いただきながら一緒にしたので理解しやすかった。
・解体はただ切るだけでなく、部位やどの部位が美味しいなどの話もあり勉強になった。
・狩猟免許をとって、その後どうしてよいかわからない中で、明確なビジョンを持つことができました。

おわりに

私は1シーズンの猟期で10頭前後の獲物を捕まえ、止め刺ししています。
4シーズンも経つと「慣れ」が出てきて止め刺し、解体が作業的になりつつあるのが現状でした。
狩猟に興味のある方や、初心者の方を交えたこのワーケーションに携わると、忘れかけていた初心や獲物に対する敬意を思い出させてくれます。
時には参加者の思わぬ着眼点からアイディアを頂く場面もありました。

若輩者ですがこの気持ちを忘れずに、まだまだ敷居の高い「狩猟」という分野に足を踏み入れるきっかけとして、よりわかりやすく、よりリアルな体験を提供できるよう運営スタッフ含め今後もこのワーケーションに注力していきたいと思っています。

                    文:快生館コミュニティマネージャー 土肥健人