快生館1周年スペシャル対談 with 古賀市長

古賀市田辺市長×SALT代表須賀・宿野部対談インタビュー
「快生館開業からの1年間と、2年目に向けて」

2021年10月にコワーキングスペースとして生まれ変わった快生館は1年を迎えました。

快生館の1年間の営み、そしてこれから2年目に向けての想いなどを古賀市田辺市長とSALTがクロストークしました。

須賀:みなさんこんにちは!快生館は今月1周年を迎えることになりました。今回はスペシャルゲストの田辺市長と快生館のプロジェクトリーダーの宿野部真央のお二人とこの1年間の薬王寺温泉・快生館の振り返りをしながら、来年に向けて未来を想像するようなお話ができたらと思います。簡単にまずは自己紹介をお願いします。

田辺市長:みなさんこんにちは。古賀市長の田辺一城と申します。年齢は42歳になります。市長になって4年目です。薬王寺温泉・快生館のリノベーション、そして新しい価値観を生み出す場所に取り組む責任者でもあります。本日はよろしくお願いします。

宿野部:(株)SALTの宿野部真央と申します。私は快生館の拠点ディレクター、マネージメントをしております。1年前に東京から福岡に移住をしてきて、すぐに快生館の運営に携わってようやく1年を迎えました。本日はよろしくお願いします。

須賀:(株)SALT代表取締役の須賀と申します。私自身東京の渋谷で会社を立ち上げまして、ちょうど会社をつくって10年目に東日本大震災があって、それから地方も含めてもっと柔軟な働き方を提供していきたいということで、10年前に福岡に移住してきました。現在は福岡市西区今宿のSALTというコワーキングスペースを運営していまして、自然と共生しながら人が働く、そして繋がるという場所を運営しています。今日はよろしくお願いします。

▼自然豊かな薬王寺という地域と市長の子供時代

須賀:では早速お話を聞いていきたいと思います。田辺市長は古賀市で生まれ育った方だと思うのですが、薬王寺という地域は田辺市長にとって、子供時代含めてどんな場所だったんでしょうか?

田辺市長:そうですね、まず古賀市全体の魅力があると思っています。古賀市は福岡市の博多から電車で20分くらいで着いてしまう、いわゆる福岡都市圏の中にあります。ベッドタウンとしての要素もあるんですけれども、薬王寺温泉があるエリアは自然に囲まれている。そして海にも面しており、川も流れているということで、都市圏にあるにも関わらず非常に自然と親しむことが日常的にできる、そうしたエリアだと思っています。

その中でまさに自然というキーワードの真ん中にあるのが薬王寺という地域であり、そこに天然温泉があると。薬王寺温泉というのは、もともと私が子供の頃よりずっと以前からこの街の非常に重要な、地域内外の人が来て交流をする人と人が繋がっていく場でした。そのような場が今も、そしてこれから未来に向けて社会の価値観が変わっていっても、その価値観をしっかり捉えながら原点である人と人が交わる場として続いていく、そういった地域であってほしいし、まちづくりの責任者としてはそういった地域になるようにしていきたいと思っています。やはりそう思うのは子供の頃から薬王寺を含めたこの街で育った、そしてこの地域特性というのを大切に思う郷土愛みたいなものが原点にあるということかなと思っています。

須賀:宿野部さんにも聞きたいんですが、快生館を開いてから地元の方が思い出として、大切なことがあったときに快生館や薬王寺に行ってたよとか、そんなことを聞きますよね。

宿野部:そうですね。今でも年配の方とかが快生館にまだ温泉入れるの?という形でふらっと訪れてくれます。今は新しいワークスペース的な場所に変わっているんですよみたいな説明はするのですが、今は地元の方が来れるように毎月イベントを企画して、月に1回は誰でも来ていただける機会をつくって地元の方にも楽しんでいただけるような場所になっていると思います。

田辺市長もともと薬王寺温泉は博多の奥座敷と言われていたんですね。博多というのが商業、ビジネスの中心で、そこで働く人たちが少し足を伸ばして、余暇を過ごしたり飲み会をして懇親するという位置付けが昔からあったと聞いていますね。

須賀:中心部で思いっきり日中働いて、ちょっと余白を作る場所として古くからビジネスシーンでもそうですし、地元の方から愛されてきた、それが薬王寺ということですね。田辺さんは幼少期は海と山が豊かな古賀市内でどんな風に育ったんでしょうか。

田辺市長:私のもともと実家のあったエリアは同じ古賀でも薬王寺とは少し離れた場所なんですが、私の家の周りは田んぼに囲まれていました。住宅地の中の同じ校区の友達が僕の家の自然がある方に来て、みんなで走り回って遊ぶ、そういった環境で育ちました。

梅雨の時期になるとうちの玄関の引き戸が開けられないという事件がありました。ある夜帰ったら、引き戸の玄関から漏れるはずの明かりが漏れていなくて真っ暗だったんです。近づいていったら一面カエルが、ぶわーっと張り付いてて。さすがに1回しか経験しなかったですけど衝撃でした(笑)もちろん住宅街も沢山あるんですけど、こういうエリアが今も残っているし、まあカエルが張り付くかどうかは別として、自然環境ともに生きていける、そういった子供時代でしたよね。薬王寺地域には蛍もいて、子供の頃両親に連れられて、薬王寺周辺の小野地域で蛍をみるというのは毎年子供の頃楽しみにしていましたね。

須賀:宿野部さんも仕事が終わった後、夕方帰るときに蛍を見ているそうですね。

宿野部:そうですね、何回見ても飽きませんよね。私自身が東京で育って、実は蛍を見たことがなかったので、すごく新鮮でした。今毎日鹿が20匹くらい帰り道にいるんですよね。ぶつかりそうになって人間慣れしています。最近はアナグマがよくでてきますね。こんな環境で働けるのは幸せだなと感じながら日々仕事しています。

市長:鹿が人間と近すぎるというのは行政としては一つ課題でもあるんですよね。農業に対する影響とかもちろんあります。ただこうした現実をもとに、農業被害を減らしながら人間ではない他の生き物とどう付き合っていくかということも非常に大事です。そして快生館が鹿というものを一つシンボルにしてもらったというのは非常に僕はいいところに目をつけていただいたなとすごく思っています。

須賀:昔から鹿は古事記とかによく出てきますし、自然と人を繋ぐような存在として取り上げられたりしているので、薬王寺は鹿もそうだし蛍もそうだし、人と自然が融合しながら、そしてそこからインスピレーションを受けて、リフレッシュしていくような、そんな場所だなと感じており、私たちも運営させていただくにあたってはすごくいいなと感じていました。

次に、快生館のプロジェクトをやろうと思ったきっかけのお話をお聞きできればと思います。

▼快生館が新たに生まれ変わった背景

田辺市長:快生館は天然温泉のある老舗の旅館で、ちょうど新型コロナウイルスが始まった初期の2020年4月前後、コロナが引き金となってオーナーの方が旅館というものの営業はやめるというご決断をされました。私はオーナーの方にもともと好意にさせていただいておりまして、その話を直接お聞きしました。その時すぐに私自身が思ったのは、旅館という営みは民間の事業者さんとしてやっていることですが、そこでいかされている天然温泉というのはまさに地域資源です。地域資源をこれによっていかせなくなってしまうというのは、この街にとって非常に損失なんじゃないかと考えました。つまり地域資源である天然温泉をいかすために、今度は何ができるかを考えなければいけないと非常に危機感を持ちました。その時はまだテレワークが広く普及していない状況だったと記憶しています。SALTさんはコロナ禍前からこうしたテレワークや新しい働き方に着目して事業をやられていて、当時恥ずかしながら私はあまりそういう視点はなかったんですが、コロナ禍になったばっかりの頃でしたから、さあどうするかという時に、新しい働き方、一極集中の打破、地方にこそ今後活路を見いだせるんじゃないか、こうしたキーワードが頭の中に浮かびました。そして担当となる経営戦略課に話をして、この天然温泉の地域資源をいかすために早急になんらかの手立てを講じると指示しました。キーワードは、新しい働き方、地方に人の流れをもってくる。そうした営みができないか、ということで検討を急速に進めました。結果としては、オーナーから話を聞いてから約4ヶ月後の9月の議会に旅館のリノベーションの最初の予算を提案させていただきました。事実上3ヶ月くらいの間に、サテライトオフィスとコワーキングスペースを整備し、これを新しい価値観のもとに地域資源をいかす拠点として再生させていくという動きの下地をつくったんです。

須賀:私たちも地方創生で様々な行政のお手伝いをさせていただいてるんですが、やっぱり高齢化とか人口減少で地域の生業が減ってきてしまったり、シャッター商店街も含めて、社会課題が日本全国に広がっています。さらにコロナの打撃で商売をうまく継続できない人たちが沢山いる中で、そういった市長のご判断で地域資源を復活させる、それはほんとに意味があることだったんじゃないかなと思います。大決断ですよね。

田辺市長:そうですね、確かに危機の中でしたから、判断のスピードも平時よりかなり早かったと自覚をしています。これから働き方の価値観が変化してきている中で、これが急速に進んでいくんじゃないかということだったり、東京に代表されるような大都市でなくても、私たちがより豊かな生き方ができるというような考え方がきっと広がっていくに違いないというベースがありました。それで忘れてはいけないのは我々は公ですから、公としては地域資源というのが活かされない状況だけは回避する、こういったベースをしっかりと持っておけば決められます。かなりチャレンジングな取り組みだと思いますので、もちろん不安がないかといえば嘘になります。ただそこをしっかり揺らぎなく持っておけば必ず道は拓けて、いいまちづくりに繋がっていくと確信をもって一歩歩みを進めたものではありましたね。かなり特殊な事業だと思います。

須賀:そこは我々も強く共感させていただいてご一緒させていただいてるんですけれども、やっぱりコワーキングスペースってこの数年で全国的にとても増えたんですね。不動産活用としてのハードルが若干低いとか、参入しやすいという部分もあってコワーキングスペース増えたんですが、単純にコワーキングスペースを増やしたからといってそれが地域のためになっているかというと、やっぱり場所を提供しているだけではだめなんですよね。市長が今おっしゃられたような本質的な理念、ビジョンというものを強く打ち出していくことで、お使いいただくことの共感が集まって、盛り上がっていくというのがあるので、単純にコワーキングスペースをつくりたいということじゃなくて、その市長が生まれ育った街で自然と豊かに生きていく、働くのをやられたいという想いが私たちもすごく共感できるし、少しずつ伝わってきているんじゃないかなという風に感じますよね。

田辺市長:私自身、また市の職員ももちろん同じ想いでこの事業に取り組んでますが、やっぱり受託していただいたSALT、須賀さんや宿野部さんをはじめとするスタッフの皆さんが古賀市、薬王寺という地域、そしてそこに生きる人を大事にして、一緒に歩んでいきたいという姿勢をすごく持っていただいているなと思っていました。そしてこの1年快生館の運営をしていただく中で、その想いをしっかりと実践して形にしてきてくれているのをとても感じます。毎月イベントを開いてもらってますが、そのイベントをやるにあたって、古賀市の人が何を持っているかとか、古賀市にどういう課題があるのかとか、古賀市がいまどういう取り組みをしようとしているのかとか、そういったことを色々踏まえた上で、古賀の快生館で営みをしていくんだという意思を強く持っていただいているので、それはほんとにありがたいなと思います。それがないとコワーキングスペースも、サテライトオフィスもなかなかうまくいかないと思うんですよね。市内外の多様な人たちがここに来て出会って、何かを生み出すと言ってますが、市外の人たちがその街に入っていって信頼を得ながら一緒に歩んでいくって結構な努力を要することだと思います。ただこの努力を怠らなければきっとそういう形にもっていける、そしてそれを実践していただけているなとこの1年間一緒に過ごしたり、1人の古賀市民として横から見ていてもすごく思うところではありますね。

▼イベントを企画する上での想い

須賀:宿野部さん、市長もおっしゃられたように毎月イベントをやってきたと思うんですけど、イベントといってもいろんな形があって、快生館を早く知ってもらいたいからそういう意味では外の方々に発信していくということをやりたい一方で、この1年って地元を意識してやってきたんじゃないかなと思うんですが、どんな想いでイベントを毎回企画してきましたか?

宿野部:そうですね、そもそも快生館ってなに?もともと温泉旅館というのは知っているけれども今どういった場所になっているのか分からない!という方々が多くて、お仕事をする場所だよといっても、コワーキングスペースとかカタカナ文字がよくわからないという方が多い中で、快生館はもともとはこういう場所だったけど、今はこういう場所になっていて、古賀市だけじゃなくて色んな地域から色んな人が集まって新しい価値を生み出している場所なんだよとまずは丁寧に説明することを大事にしています。月に1回のイベントでは、より地域の方々に来てもらえるような機会をつくるために、地域で活動しているプレイヤーの方を巻き込むことも意識しています。たとえば蚤の市を薬王寺在住の木村さんに毎月やってもらってるんですけど、地域の女性で活躍したいという方をサポートするようなことをやったりしています。特に印象深かったイベントは、竹祭りです。薬王寺は竹がたくさん荒れていて、それをどうにかしたいという想いがずっとありました。たまたま薬王寺在住の木村さんが竹を所有していたのでそこの竹を活用し、たまたま九州大学の学生たちが知り合いだったので、彼らを巻き込み、留学生たちも沢山来てくれて、事前に準備をしながらその竹を灯篭にしたり当日流しそうめんにしたりというような活用をしました。地元の方もですし、古賀市外からきた方々がうまく混じり合って新しい価値を生み出すということが一つ形としてできたということがよかったなと感じます。ただまだまだ知名度は弱いですし、今コツコツSNSで発信はしていて、インスタグラムではようやく最近600人のフォロワーになったんですが、そういったことも地道にやっていっています。最近ではインスタを見て知りましたというような声も聞くようになって、すぐに結果にはならないかもしれないけれど、コツコツやってきていることが少しずつ評価されてきているのかなという実感はあります。ただほんとにまだまだこれからという感じではあります。

市長:竹のイベントはしていただいてとても嬉しかったです。古賀市に限りませんが、山を管理する中で放置竹林というのは非常に重い課題だし、この課題解決のための術が根本的には多くの地域で課題として残り続けているものですよね。私も非常になんとかしたいなと今も思っています。そうした中でいわゆる地域課題に着目して、楽しく竹を活用しようとしていただきました。そこでよかったのが、地元の皆さんもそうなんですけど、九州大学の学生が関わっているところで、この偶然性が嬉しいんですよね。自分たちだけでやることもできるんでしょうが、これが快生館の一つの可能性の価値だと思ってるんです。快生館という営みがなければそもそも竹を使って何かイベントしましょうとならないわけだし、そこに宿野部さんがいて、たまたま宿野部さんの知り合いが九州大学生で、それが思い浮かんだ。これの積み重ねが多分多様な人材の交差とか出会い、そこで何かが生まれてくるのに繋がるわけです。あまり悠長にしていてはだめなんですが、ある程度時間が必要ですよね。焦りすぎずにそういう感度をきちんと持って、関わる一人一人がやっていったら、きっとどんどんネットワークが膨らんでいって、よりいい形にどんどんなっていくんじゃないかなって感じましたよね、竹のイベントをしていただいたときに。

須賀:「人の交差」というキーワードが出たので、市長にちょっとお聞きしたいんですけど、快生館のコンセプトとして、田辺さんがいつもおっしゃっているクロスオーバーという部分を我々も意識しながらやっているんですけれども、クロスオーバーというキーワードに込める田辺さんの想いにどういった可能性を感じられているんでしょうか。

▼クロスオーバーという言葉に込める想い

田辺市長:人って私もそうだし、須賀さんも宿野部さんもそうだと思うんですけど、1人の人間の経験とか能力とか感覚とか、そういうのはもちろん限界があるじゃないですか。言葉にしてしまえば当たり前なんですが、限界があるんです。自分で頑張ろうというのは絶対大事なんですが、割り切ってしまえば、たぶん自分だけじゃなくて、ここにいる2人、ここにいる3人で、一緒に考えて何かやった方がきっといいものが出てくるはずなんですよね。古賀市のまちづくりをよくしたいというときに、市長たる私と3-400人いるこの街の職員はもちろん頑張るんです。頑張るんですが、行政だけじゃなくて、6万人くらいいる市民の皆さんと一緒に何かを共に考えて、共に何かの営みを生み出したりしていく方がきっと可能性が広がっていくはずというのがあります。古賀市まできましたけど、いやいやたった6万人の街じゃないかということですよね。そうじゃなくてもう古賀市外、福岡県、九州、日本、世界、とにかくより多くの人たちが関わる方が、その経験、知見、感性、こういうものが交差する。だからとにかく多様な人たちが集まってくるということがまず大事なんです。そのための場としての快生館でこれからもあってほしいし、だからこそまちづくりの非常に重要な理念として、クロスオーバーによる共創というものを掲げているんですよね。みんなでやった方がなにか出てくる、単純にいうとそんな話ですよね。そして現にこの1年で出てきていると思います。快生館は快生館として今薬王寺地域にありますが、中心市街地の古賀駅の周辺の活性化も今やっています。ここで活性化策として頑張ってくれている市内外の人たちがすでに快生館と繋がって、この前もイベントを打ってまた新たな人の流れができて、新しいアイディアが生まれたりとかしているわけですね。足し算ではなく掛け算なんですよね。だからそれがクロスオーバーによる共創を掲げている理由だし、可能性が必ず広がっていると確信を持っていますね。狙っていたわけではないけれど、狙ってないことが起きているというのは大事です。思っている通り全てなっているわけじゃないですからね。むしろ想像以上になっているというのが古賀駅の商店街の本質的な再生の今の現状だし、この快生館で起きていることは、当初僕が想定したこと以上の何かがどんどん生み出されているというのが嬉しいですよね。それがクロスオーバーということなんだと思いますね。

須賀:これから日本って人口減少や高齢化もそうですけど、人の部分でリソースが減っていく中で、1人の力でやるんじゃなくて、まさに掛け算をすることで1人の力だけじゃなくて、何倍にもチームの力でよくしていける、それによってスピードもあがるし、まさに予想以上の成果が出るというのは思いますよね。

田辺市長:面白いです。だってこれがなかったら宿野部さんと会ってないじゃないですか。こんな面白い人と会えたことが嬉しいです。ちょっと何が生み出されているか分からない部分もありますが(笑)宿野部さんと話して、僕の感性に刺激をいただけることもありますしね。やっぱりそういう機会が生まれているわけですよ。僕も快生館でテレワークをすることもあるんですが、テレワークする意味はなんだって考えたときに、いやいやここに人が来てるんだから、この人たちちょっと話す意義があるやんと思っていくんですよね。快生館に行ったらいつもコーヒーを淹れるんですが、その時に色んな話ができるんですよ。いきなり何かがストレートに繋がってないかもしれないけど、次自分が何か思考する時にあーあの時こんな話をしたなみたいなことがある。だからコワーキングスペースの意味があるし、サテライトオフィスで色んなところから色んな業をやっている人がそこに入居してくる意味があるし、そういうことなんじゃないかと思いますよね。

須賀:宿野部は東京から移住してきて、SALTの社員になったんですけれども、彼女自身が帰国子女で海外で育ってきて、そして彼女自身が日本中、世界中旅することが好きで、そういう彼女が女将として着任すると、クロスオーバーって起きやすいんだなというのを感じて彼女に任せたわけなんですけれども。東京から移住してきて、最初のプロジェクトとして快生館を任されてどうでしたか。

宿野部:正直ちょっと不安もあって、アクセスはいいけども車がないと行けないとか、ここにどうやったら人が集められるんだろうみたいなところは最初すごい悩んではいたんですよね。面白いコンテンツをつくらなきゃみたいなところで、定期的にイベントをやるとかSNSでコツコツ発信するというのはもちろんあったんですけど、じゃあどう人を集めていこうというところはまだ模索中ではあります。ただ利用者の声として、何もないことが魅力という声が最近結構あるんです。自然の音を聴きながら目の前に緑があって、豊かに仕事ができる環境で集中できると。こんな環境実はあんまりないですよとお話をいただくこともあって、何かを無理やりつくろうとしていたけど、逆に何もないことが魅力なんだと最近発見があったりもしました。今ワーケーションや入居企業も着々と増えてはいて、13部屋中6部屋入居していただいていたりとか、直近でワーケーションも5件くらいあって、順調に色んな方に知っていただけているとは思っています。海の拠点のSALTにワーケーションにきてくれた企業が快生館使ってくれたりするコネクションも最近増えてきているので、そういったところはこれからもやりながら発信していきたいです。また個人的には快生館に来ていただいた方と一緒に楽しむことを大事にしています。ただ箱として提供するのではなくて、たとえば懇親会をやるときに私も一緒に入って色んなお話をするんですけど、それで次回に繋がったりみたいなこともあったりするので、来ていただいた方の満足度をどう高めていくかというところはすごい意識してやってはいます。

須賀:コロナで自宅でもリモートワークとかそういうものができるようになって、自分と向き合う時間がすごく増える中で、これまでの情報過多の状況とか消費的な暮らし方ではなく、自分の足元を見つめていくことの大切さみたいなことを皆さん気づいてきている。だからこそ快生館に企業が合宿として来たりとかが増えているんじゃないかなと思うんですよね。市長が最初に考えたコンセプトというものが時代にマッチしてきたというか、世の中が変化してきてそれに気づいてきた。何もないからこそそこで見つめなおすという意味では、すごく快生館が重要な役割を果たしているんじゃないかなと思いますよね。

田辺市長:市内外の企業の経営者の方とか、機会があれば一緒に快生館へお連れしたりしています。中を見てもらって企業合宿もできるんですよとかいうお話をしたらもうその場で予約いただいてくれた経営者さんもいらっしゃいます。現場に来てもちろんご説明はするんですが多分しなくても施設見てもらって、わずか古賀駅から車で15分であんなに山間の雰囲気に包まれて時間が過ごせる。これを体感してもらえたら自ずとここでまず働いてみようとか合宿してみようとなるんだなとすごく実感しますね。経営者の方がそうやってなってくれるというのが時代背景としては大きなところがあるんじゃないかなと思います。

須賀:こういったSDGsとか社会持続性といったことを考える上でも皆さん仰られるのは、街の中の会議室だとどうしても数字とか効率性といったのもの重視してしまうんだけれども、薬王寺のような森の中で考えることで、もっと長期的な視点・視野で会議ができるというのは皆さん仰られているんですよね。そういった意味でも、当然街の中でできることもあるし、薬王寺でできることもあるし、繋がりながらいい循環が生まれていく場所になるといいなと思います。

▼快生館に対する外の声とは

田辺市長:快生館が走り出すときに、やっぱり知名度がそもそもないところからどうやってこの価値を伝えていくかっていうのはスタートダッシュの時に重要だと思っていたので、もちろんメディアにも積極的に売り込んだりしてきました。私の議員だった時代からの政治家のネットワークや、これまでの政治家として培ってきた人間関係を使って、色んな人に視察にきてもらっています。その中で視察にきてもらった皆さんは一様に、まずこの環境で働けるというのは素晴らしいし、その発想がいいねという反応は多くいただいています。テレワークの普及とか、働き方の価値観が変わってきているという前提は皆さんわかってるんですけど、それをどう実践するのっていうときに具体的な現場をあまり実は見たり知ったりしたことがないのかなと思うんですね。だから都心のテレワークではなく、こういう自然環境の掛け算で場が成立するんだということへの驚きの反応をしていただけるのは嬉しいですね。それが今度利用に繋がらないといけないんですけどね。

須賀:快生館にきていただいた企業さんは一様におっしゃるのは集中できるということと、SALTよりも静かな心で1日落ち着いていられるよねという、という評価がすごい高いですよね。SALTの特に会員さんが薬王寺をすごい気に入って、いつも海にいる人たちが定期的に快生館で合宿するようになって、海と山が繋がってきている。そういうのが1年でなってきたなと思いますね。企業さんもSALTで1泊、薬王寺で1泊というパッケージが非常に満足度が高いんですよね。これは予想外というか、単発じゃなくていい効果が出てきているなと感じますよね。

宿野部:毎回アンケートをとってるんですけど、総じて満足度は高いですね。集中できるというのと、スタッフが積極的にコミュニケーションをとっているので、そのあたりも評価していただいています。またディスカッションの時間を設けてもらったりしていて、よりチームのメンバーで内省する、チームビルディングをしていただいています。ただワークするだけではなく、メンバーみんなでフリースペースの鹿が現れたりする環境の中で深い対話をするっていうのがよかったという声も聞いてます。テントサウナもよくしていて、四人くらい入る密室なんですけど、そこで結構色んな話をするんですよね。裸同然の中で対話をして、水風呂に入って、外気浴をする体験を今までしたことなかったという方も多いので、新鮮でよかったという声も聞きます。

須賀:やっぱりこうお風呂に入ってみんなで裸同然の付き合いをして、そして森の中で働くというのは、普段どうしても上下関係とか組織の中で気にしちゃうところがあるけど、一旦フラットで人と人として対話をするっていう意味では快生館ってほんとに向いてる場所だなと思います。使っていただいている表情とか声とかから感じますね。

▼市長の快生館お気に入りスポット

田辺市長:快生館のお気に入りスポットはスモールオフィスの角部屋です。サテライトオフィスが埋まってないから使えてるんですけど、オフィスで貸し出す前提でリノベされた元客室ですね。角部屋だから窓が両方にあって、目の前が山で。僕は必ずテレワークはあそこを使わせてもらってまして、ここがいつ埋まるんだろう、ここが埋まったら僕はどこにいくんだろうっていう。埋まったら普通にコワーキングスペースで仕事しますけど(笑)でも市長としてテレワークをするなんてコロナ禍前は考えたこともなかったですから、やってみるとできるんですよね。結局自分の仕事のマネージメントをどうするかというところで、もちろんずっと市役所で仕事をすることもできるんですけど、例えば1週間の働き方を整理して、市役所にいなくたってできる仕事はあるわけですよ。それをじゃあこの1日にとか、このひと月のこの1日に持ってくるとかですね。だからこれは市長でもできるし、誰だってできるはずですよね。ずっと窓口をしていなきゃいけない対面業務だったら難しいんですけれども、いわゆる事務が一定程度ある仕事だったら、これは広く働き方としては実践できるだろうなとは思いますね。だから市長テレワークでハッシュタグで発信したりするんですけど、あまり広がらないですよね(笑)上村さんという同い年の東かがわ市長もテレワークを実践していて、動物園でもテレワークしてましたね。認識できている限り、市長テレワークと言ってやっているのはその2人だけですけどね(笑)

須賀:トップから動くというのはすごく大事ですよね。

田辺市長:そうなんですよ。市長テレワークとかは意図的にやってますからね。職員はできる前提が整っていてやっていいので、是非広くやってほしいなという想いがあります。快生館じゃなくても、テレワークを積極的にやってる職員は出てきてますね。いいことだなと思いますね。

1年目に色んなことを起こしてきた中で、2年目に向けてどういった場所になっていったらいいか、その意気込みをお聞きしたいと思います。

▼快生館の2年目に向けて

田辺市長:すでに1年目の走り出しにして、古賀市外の近隣の宗像、福津、福岡市、それよりももっと離れたエリアの、いわゆるまちづくりとかまさに快い生き方とか、新しい価値の創造を求めて仕事をしたり、生きている人たちが入ってきたり、関わってくれたり、関心を持ってくれている状況にはなっていると思うんですね。私もおかげさまで友達がたくさん増えました。これはすごくいいことだと思うので、2年目以降こういう方々たちとよりどういう営みが生み出していけるか、またそのような方々のネットワークの中で同じ想いを持った方々を惹きつける磁力を2年目持てるかどうかというのは重要だと思います。何よりも関わる人によってこの快生館の持続可能性が決まっていくと思いますので、そういった磁力を強くしていく。目の前の、サテライトオフィスをしっかり埋めたりしていくことももちろん大事ですが、多くの人を惹きつける力を2年目しっかり溜め込むこと。そのために我々行政としてもどんどん仕掛けていかなくてはいけませんし、ぜひ運営していただいてるSALTさんにはその力をぜひ遺憾無く発揮していただきたいなと思っています。

宿野部:市長から頂いたお言葉遂行するというのはもちろんそうですし、今快生館に入居していただいているメンバーで何かプロジェクトみたいなのができたらいいなと思います。色んなスキルをもった会社さんが入居しているので、快生館でこういったことが生み出せたみたいな事例が一個つくれたらいいなと思っています。あとはもちろん13部屋すべて埋めて、日々の利用者も増やしたいです。個人的にやりたいのは、最近狩猟免許を取得したんですが、まわりに鹿がたくさんいるので、早く鹿を狩って快生館でオリジナルのジビエ料理を出したいなと思っていて、市長に早く食べさせてあげたいです。

田辺市長:ぜひ食べさせてもらいたい(笑)それはやっぱりSDGsというか、生きるために狩猟をする。食べるために捌く。快生館に来たら、生きることと食べることの意味をまさに体感できるという企画やりたいですね。

宿野部:そうなんですよ。それをずっとやりたくて温めているので、早くそれを2年目には遂行したいと思っています。

田辺市長:これはちょっと目標にしましょう。イノシシや鹿は地元の人も食べさせてくれたりはしましたけど、頂く前の営みというのは直接的には僕は経験したことがないので、これはすごく大事なことですね。

宿野部:あと個人的にインバウンド呼びたいというのはあって、自分自身が海外で育ってきたので、外国の方々に古賀という場所を知ってもらいたいですね。

田辺市長:そうですね。うちは国際交流、多文化共生とても進めている街なので、そういった意味でも快生館を広く海外の人にも知ってもらいたいです。この前日本とイタリアの経済貿易の団体のトップをお招きして、非常に満足していただきましたね。イタリアにもこういう場所があったらいいっていう感じでしたね。やっぱりあのSDGsの観点から捉えてくれてましたね。

須賀:この1年でほんとに多くの企業さんに来ていただきましたし、市長や宿野部など含め、面白い大人たちがどんどん快生館に来るようになってきていて、そこから2年目はさらにコラボレーションが生まれて、新しい可能性が快生館から生まれるようにしていきたいなと思います。「ひと育つ、こが育つ」を古賀市が掲げているように、子どもたちにも多様な大人に触れてもらって、より変化が激しくなってきている時代の中で、色んな選択肢があるんだよってことを子どもたちに知ってもらえるようなそんなイベントを色々仕掛けていけたらいいなと思っています。ということで、今日はお二人にお話をお聞きしながら、1年目の快生館の活動を振り返り、そして2年目に向けてお話を色々してきました。我々SALTも頑張って盛り上げていきますし、市長と連携しながらやっていきたいと思いますので、2年もよろしくおねがいします!

全員:よろしくおねがいします!!

今日はどうもありがとうございました。